前作『39108』は「歌を聴かせるバンドサウンド」として全体が収斂されていてかなり好みだったのだが、今作はかなり拡散している。前作までのソロ作品には色濃かった「ストイックさ」とか「老成した感じ」からも解き放たれている。
一聴した時は先述した点から、軟派で散漫な印象を持ち、今一つだなと思ったが、聞き込むうちにそれ等の印象は吉井和哉の「バラエティの多様さ」「クリエイティビティの爆発」と捉え直すこととなった。アイデアが豊富に詰まっているが、サウンドや構成が良く練られていて、聴かせたい音が明確にシンプルにまとめられている。一曲一曲の強度が高く、聞くほどにどの曲も可愛くなってくる。
聞く前は、CDジャケットの様子から怪しげでダークな感じのアルバムなのかと想像していた。最初の「Introduction」「Do The Flipping」はまさに暗くヘビーな雰囲気があり、こういう感じでずっと続いていくのかと思ったが、・・・そんなこともなく、続く「Biri」は怪しくもだいぶ明るい。「ルーザー」や「上海」も明るめ。ただ明るいとはいえ、どれも不思議にクセがある。曲が転調したり、ファンクのように循環コードだったり、捻れたポップで一筋縄ではいかないところが面白い。また、このアルバムではこれまでの吉井和哉のソロではあまり見られなかった、猥雑さや卑猥さといった獣感を取り戻しつつあり、「Pain」ではかなり直接的な表現が見られる。ここまで露わな歌詞は今後のスタンスの強い意思表明にも思える。
奇々怪々な中盤を抜けると、9曲目からシングル曲「Shine and Eternity」「バッカ」「Winner」を並べられており、気分が洗われるのだが、「マンチー」でひとふざけを挟んでくるのは性癖だな。「Winner」から「雨雲」だと流れがきれいすぎるか。